研究概要 |
1.神居古潭帯新冠地域に分布する付加体について野外調査を実施し,岩石薄片の観察,放散虫化石抽出,および変形構造の解析から,層序や変形履歴を解析した.その結果,当該地域の付加体は,(1)前期白亜紀中頃に海洋プレートの左斜め沈み込みに伴い表層部で剥ぎ取り付加によって形成され,(2)形成後約2000万年かかって沈み込み帯深部約15kmまで搬入されて低温高圧変成作用を受けたことが明らかになった.これらの過程は,浅部物質がプレート沈み込みによって深部に引き込まれる構造侵食を示すと考えられる. 2.前弧海盆の層序と放散虫化石年代の検討を行った.上記の構造侵食や高圧変成岩の上昇イベントと同時期に,神居古潭帯のみならずより海溝寄りの地域にも不整合が形成されたことが明らかになった.不整合直上に海底土石流〜地すべり堆積物が普遍的に産することや,変成岩上昇域で浅く海溝寄りで深い堆積相を示すことから,当時の前弧海盆が一時的に海側に急傾斜化した様子が復元された. 3.上記の成果を統合し,高圧変成岩上昇時における前弧域での固体物質循環モデルを構築した.すなわち,構造侵食による内弧側への物質移動,沈み込み帯深部から浅部への上向き物質移動,および表層の急傾斜化と斜面崩壊による海溝側への物質移動からなる,コーナー流が復元される.当時沈み込んだ海洋プレートは堆積物に乏しく海山等の起伏に富んでいたことから,このコーナー流は,プレート上面の摩擦が増大したために生じた誘導流と考えられる. 以上の成果については,一部は論文や学会発表で公表したほか,学会巡検を開催し多くの研究者の意見や教示を受け,現在も論文を執筆中である.
|