研究概要 |
該当年度においては,各形態型の機能的特性を推定する際に重要となる呼吸機能についての検討をおこなった。三葉虫が呼吸を行っていた場所については,ほぼ一世紀にわたり"外肢=鰓"仮説が通説となっているが,検討は全く行われてきていない。そこで,現生の海性節足動物で系統的に遠いカニとカブトガニを用い,鰓構造の形態的共通項を探り出し,それをもとに三葉虫の"外肢=鰓"仮説を検討した。その結果この仮説は誤りであることが明らかとなった。さらに,外肢の上方に位置する部位に血脈状構造を見出した。節足動物は開放血管系であるが,鰓には血脈が存在することがよく知られているため,この領域が呼吸部位である可能性が高いと踏まえ,現生の海性節足動物における様々な呼吸器官の特徴や,呼吸領域の循環系と消化系や筋肉系との構造的関係性を比較解剖学的に求めた。その結果を三葉虫に血脈状構造とその周辺との構造関係と比較すると,矛盾のない対応関係が認められることが明らかとなり,呼吸領域の特定に成功した。前後半それぞれを論文として国際誌に投稿しており,それぞれ受理と査読中。 また,礁において特定のニッチパターンを持たない種が,隠棲的な生態であったことを示す埋積状態を新たに見出した。近縁種は特定の深度・底質・緯度分布を示さない特性を持つことが知られており,複眼構造は三葉虫のなかでも原始的な部類であることと併せて,夜行性である可能性が高いと解釈することができた。この結果は学会での口頭発表を行った。
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