研究概要 |
本研究は,ビーム物理研究に応用できる機能を備えた線形ポールトラップシステムを構築し,このシステムによりビーム不安定現象を実験的に研究することを目的とした.本年度は昨年度までの結果を基に実験装置の改良を行ない,典型的なビーム不安定性の一つである非線形共鳴現象に対する空間電荷効果の影響について検討した. 1.実験装置の改良. (1)レーザー冷却系の改良.実験ではイオンプラズマの温度をレーザー冷却により制御する.そのためにはレーザーの波長安定性が重要である.レーザー冷却用のレーザー光学系を改良することにより,波長安定性,伝送効率を向上した.このレーザー冷却系により線形ポールトラップに捕捉した10^4程度の^<40>Ca^+プラズマの温度を数千〜100K程度の範囲で制御することに成功した.通常のレーザー冷却に比べ温度の下限が高いのは,イオン数が多くイオン閉じ込めのための高周波(rf)電場による加熱効果が大きいためと考えられる. (2)レーザー誘起蛍光(LIF)観測系の改良.観測はファラデーカップによる粒子数測定とLIF法を組み合わせて行う.ただし,昨年まではLIF観測の視野が狭く,イオントラップ内の一部の領域しか観測できなかった.本年度は結像光学系を変更することにより十分に広い視野を確保した. 2.共鳴損失の観測 非線形共鳴は,イオンプラズマ捕捉のためのrf電場の(空間的な)高調波成分とイオン運動の永年振動が共鳴することにより粒子が損失する現象である.加速器においては収束磁場の高調波成分とベータトロン振動の共鳴として同様の現象が発生する.イオントラップに捕捉する粒子数を変化させ,非線形共鳴の生じる条件に対する空間電荷効果の影響を実験的に検討した.その結果,イオン数の増加に伴い,共鳴周波数が低下していく様子が観測された.これは空間電荷効果により,イオンが感じる閉じ込め場が減少し永年振動の周波数が低下するためである.このズレ量から,ビーム物理で空間電荷効果の影響の指標として用いられるTune Depressionを評価すると,およそ0.8程度であり加速器ビームに比べ高密度状態にあることが分かった.このことからビーム不安定現象及びそれらに対する空間電荷効果の影響を研究する模擬実験装置として,この線形ポールトラップシステムが有用であることが確認できた. このシステムは非線形共鳴以外の様々なビーム不安定性についても再現することが出来る.今後は様々なビーム不安定性について検討を進める.
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