研究概要 |
強光子場中の分子が、いかに電子的に励起されるかを知ることは、強レーザーと分子の相互作用を知る上で重要である。しかし、これまで強レーザーによって励起された分子の内部状態を知ることは困難であった。昨年度は、強光子場によってイオン化した親イオンからの蛍光を分光計測し、生成イオンの振電励起状態分布の観測を試みた。試料気体の圧力依存性に基づいて、レーザー場による直接的な励起過程を、分子衝突や光電子による電子衝撃などの2次的過程と区別することによって、強レーザー場誘起イオン化過程における振電励起機構について調べた。本年度は、データの解析を進め、一酸化炭素分子イオンの発光スペクトルからA^2Π-X^2Σ^+,B^2Σ^+-X^2Σ^+,B^2Σ^+-A^2Π,の遷移を観測することができた。A状態についてはv'=2,3,4,5に分布が、B状態についてはv'=0,1,2に分布が観測された。中性CO分子の振電基底状態からのフランクコンドン因子から考えると、A状態のv'=0,1にも分布があるはずであるが、今回の測定では、A状態のv'=0,1に分布が見られなかった。最近発表された、強レーザー場イオン化における振動分布の理論計算では、イオン化確率を決める支配的な要因は、イオン化ポテンシャルであり、エネルギーが低い準位に分布が多くなることが示されている。しかし、今回の結果とは、一致しない。理論計算では、イオン化過程での振動やイオン化前後の電子状態の結合など動的な効果を含んでいない。本研究の結果は、強レーザー場によるイオン化による状態分布にもダイナミカルな効果が重要であることを示唆している。
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