研究概要 |
本研究は金属内包フラーレンと有機ドナー分子との分子間相互作用を利用した磁性-伝導ハイブリッド型超分子の構築を目標とし、検討を行ってきた。金属内包フラーレンは金属原子から炭素ケージへの電子移動により、空フラーレンとは異なる新規な電子的特性を持つ。その結果、空フラーレンよりも優れた電子受容性、供与性を示し、さらに磁性化、反磁性化の制御も容易である。金属内包フラーレンと有機ドナー分子との複合系は、金属内包フラーレンが持つ非常に高いHOMOと低いLUMOに由来する高い導電性と磁気的な分子間相互作用による磁性特性の両方の出現が期待できると確信する。 平成18年度はLa@C_<82>と有機ドナー分子N,N,N',N'-テトラメチル-p-フェニレンジアミン(N,N,N',N'-tetramethyl-p-phenylenediamine, TMPD)との溶液中での挙動について検討を行った。その結果、反磁性La@C_<82>アニオンとTMPDラジカルカチオンの生成が確認され、基底状態において電子移動を伴い1:1の錯体を形成することが分かった。興味深いことに、この電子移動は完全な平衡状態にあることから溶媒の誘電率や温度を変化させることによって平衡が偏り、電子移動を可逆的にコントロール出来ることが明らかとなった。さらに電子移動の前後では可視-近赤外吸収スペクトルが大きく異なることから、ソルバトクロミズムやサーモクロミズムといった現象も観測されている。この様なスピンサイト交換現象の発現は非常に低い還元電位を有し、且つ還元体が安定な常磁性金属内包フラーレン特有の現象である。
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