研究概要 |
ケイ素-ケイ素単結合を主鎖とする化合物であるポリシランにおける,主鎖立体配座とシグマ共役の相関については,理論的および簡単なモデルを用いた実験的研究による議論がなされており,SiSiSiSi二面角が180°であるanti配座が共役の拡張に最も効果的であると言われていた.ところが,単結合周りの自由回転を抑制し,立体配座を自在に制御する手段は限られていた.そこで本研究では,双環トリシランである1,6,11-トリシラビシクロ[4.4.1]ウンデカン骨格を用いて,ケイ素鎖の立体配座を完全all-antiに制御する方法の確立をおこない,これまでにこのユニットから構成されるペンタシランおよびオクタシラン化合物の合成に成功し,X線結晶構造解析からその主鎖構造が設計通りall-anti配座をとること,UV吸収スペクトルからシグマ共役が効果的に拡張していることを確認した. 平成18年度はこのような構造的・電子的特徴を有するオリゴシラン化合物の蛍光測定を検討した.その結果,ペンタシラン化合物において特異な現象が観測された.すなわち,立体配座が制御されていない化合物(n-Si_5Me_<12>)では自己束縛励起子に由来するストークスシフトが大きくかつ幅広な発光帯を示すのに対し,本研究で開発したall-antiペンタシラン化合物は,長鎖のポリシラン化合物に類似した,ストークスシフトが小さいシャープな蛍光を与えた.これは,立体配座を厳密にall-antiに固定することで,励起子が非局在化するようになったためであると考えられる. このように本研究において本研究者は,双環トリシランユニットを用いて主鎖配座が完全all-antiに制御されたオリゴシランにおいて,その特異な構造に由来する特異な光物性の発現を確認した.この知見は,効果的な構造制御を行えば,低分子でもポリマーに近い物性を示すということを示唆するものである.今後,これらの化合物のさらなる特異な物性の確認ならびにその応用が期待される.
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