研究概要 |
4つの鉄と2つのアセチレンフラグメントから形成されるCp_4Fe_4(HCCH)_2は、3段階の可逆あるいは準可逆な一電子酸化および1段階の非可逆な還元を受けることがこれまでの我々の研究により、明らかとなっている。我々はこの酸化還元活性な[4Fe-4C]骨格をユニットとして用いた機能性分子構築を最終目標として、クラスター骨格への官能基導入法の開発をおこなった。 [Cp_4Fe_4(HCCH)_2]^+とNXS(X=C,B,I,N-ハロコハク酸イミド)との反応により、アセチレンプロトンのハロゲン化に成功した。[Cp_4Fe_4(HCCH)(HCCX)]^+と各種求核剤(ZnR_2,RMgBr,LiOR,LiSR,LiPPh_2,pyridines,phosphines)との反応により、各種官能基をクラスター骨格部位へ導入することに成功した。この官能基導入法では、すでに確立されている有機化学的手法(求核置換反応)を用いることが可能であり、汎用性の高い方法といえる。得られたクラスターのキャラクタリゼーションはNMRなど各種分光学的データおよび単結晶X線構造解析により行った。 [Cp_4Fe_4(HCCH)(HCC-C≡CR)]^+(R=H,SiMe_3,C_5H_4FeCp)のサイクリックボルタモグラムでは、-1/0,0/+1,+1/+2,+2/+3の4段階の酸化還元過程が観測されたが、+1/+2の過程は非可逆であった。これらのクラスターを[Cp_2Fe](PF_6)により酸化したところ、炭素-炭素結合の開裂および鉄-鉄結合の生成を伴って、[Cp_4Fe_4(HCCH)(μ_3-CH)(μ_3-C-C≡CR)]^+が得られ、さらにCp_2Coにより還元したところ、もとの一電子酸化体が再生した。以上のことから、電気化学的に非可逆に観測される+1/+2の過程は化学的には可逆であることがわかった。
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