有機強相関物質α-(BEDT-TTF)_2I_3は、135Kを境に金属状態(高温側、電荷非整列状態)から絶縁体状態(低温側、電荷整列状態)へ相転移を起こすことが知られている。我々は、最近、α-(BEDT-TTF)_2I_3の低温絶縁体状態に可視光パルスレーザを照射することにより、絶縁体状態から金属状態に相転移させることに成功した。本年度は、本現象の機構解明を目的に分光学的な研究を行った。実験は、ナノ秒波長可変レーザを用いて、近紫外から近赤外までのパルスレーザをα-(BEDT-TTF)_2I_3に照射して、外部電場下で発生する電流応答を検知した。実験の結果、光誘起絶縁体-金属転移が、450nm付近の光励起だけでなく900nm付近の近赤外光によっても起きることを見出した。α-(BEDT-TTF)_2I_3は450nmと900nmに異なる吸収帯を持ち、450nmの光吸収はHOMOバンド(最高占有軌道)とLUMOバンド(最低被占有軌道)間の電子遷移に、900nmの光吸収はNext HOMOバンド(最高占有軌道より一つ下の分子軌道)とHOMOバンド間の電子遷移に対応している。この実験結果から、光誘起絶縁体-金属転移は光励起直後に生成される電子と正孔の電子状態にそれほど依存せず、格子緩和後に生成される局所的な電荷秩序の乱れが光誘起相転移を引き起こす重要な因子であることを突き詰めた。つまり、光励起により生成される局所的な電荷の乱れがある密度以上になると、ミクロな電荷秩序の破壊がマクロなスケールへ時間および空間発展し、金属状態に相転移することが明らかになった。最近、同様の現象が理論計算でも報告されており、本実験結果を支持している。
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