研究概要 |
本研究では、熱重合過程で生成する異方性を有し、かつサブミクロンオーダーの浮遊物であるアタクチックPAN(at-PAN)単結晶粉末および立体規則性を有するイソタクチックPAN(iso-PAN)単結晶粉末を原料とし、これを分散させPANの直接炭化による新規ナノカーボンの創製を行った。しかし、炭化により初期に有していた異方性などはある程度は保持していたが、詳細に観察すると、全ての試料でおよそ100nmほどの微細な構造の凝集となっていることが確認できた。従って、当初の予定を若干修正し、炭素繊維、ナノカーボンなどPAN系高分子から炭素物質を作製した時の反応機構は不明な点が多数あるため、これら立体規則性の異なるPANを用いて、炭化過程を詳細に追跡することにより、PAN系高分子からの炭化機構を明らかにすることを目的とした。 PAN粉末試料を用いて立体規則性が耐炎化反応機構にあたえる効果について検討した。TG/DTAおよびIR測定によって、立体規則性が低いat-PANの耐炎化は,立体規則性が高いiso-PANと比較して低温から始まることが分かった。GC-MS分析の結果、耐炎化反応中の重量減少は、PAN分子鎖切断反応によって発生したアンモニア、シアン化水素、分子量41-147のニトリル関連物質であることが分かった。発生ガス量はiso-PANで多く、iso-PANは分子鎖切断反応がat-PANより顕著に起こることことが分かった。反応初期段階では耐炎化反応機構に違いがあることが、IR測定によって明らかになった。IRスペクトルの結果から,at-PANは分子鎖コンフィグレーションの乱れた部分から選択的に耐炎化反応が開始することがわかった。一方,iso-PANの耐炎化初期段階では,立体規則性が一定のまま反応が進行し、反応部位の選択性はないことがわかった。
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