最終年度である本年度は、昨年度に構築した試料作製技術と測定システムを用いて、非局所スピン注入においてナノ磁性微粒子が受けるスピントルクと、スピン流の量子化軸と微粒子の磁化の相対角度の関係について詳細に調べた。その結果、相対角度の増加とともにスピントルクは大きくなり、90度で最大の反転磁場の減少をもたらすことを実験的に示した。これは、スピントルクがスピン流の量子化軸と微粒子の磁化との外積で表現されるためであり、非局所スピン注入で誘導された磁化反転が局所スピン注入のスピントルクと同様の傾向であることを意味している。また、同手法を用いて、スピン流のみによる磁壁の運動制御に関する実験を行った。現在、磁壁の電流駆動の実験においては、すべて局所スピン注入であり、ジュール加熱や電流誘導磁場の影響を排除するのが困難であったが、本実験により、真のスピン流の影響を知ることができる。その結果、非局所スピン注入により、磁壁の生成・反転磁場を激減させることが可能であることが分かった。また、必要なスピン流の大きさは、これまでの局所実験で得られている値と同程度であることを実験的に確認した。 その他、更なる高効率のスピン流注入法のために、2端子スピン注入による量子化軸の電気的制御、斜め蒸着を用いたCo/Cuスピンバルブによるスピン分極率の向上、Ag細線によるスピン拡散長の飛躍的向上等の技術を確立した。
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