研究概要 |
本研究は,大規模整数に対する因数分解のための大容量光処理システムを開発することを目的としている.昨年度までに,因数分解アルゴリズムにおける主要処理である乗算剰余演算を平面波干渉計で行う手法を提案している.二次元並列処理型の拡張システムを新たに開発し,133万点以上の同時多点処理が可能な並列光演算システムを提示している. 今年度は,自動化システムの開発と光学ハードウェアのモジュール化を検討した。試作済みの二次元並列光学システムは,干渉計の片方の平面波の進行方向を反射鏡の傾きで変調することで所望の演算を実現する。そこで,対象整数を入力することで傾き角を計算し,ステージコントローラを介し反射鏡の傾きを制御するソフトウェアモジュールを開発した.開発した環境により,光学系と汎用計算機がグラフィカルユーザインターフェースで統合されたシステムを構築できた.これによりデモンストレーション、および処理能力評価装置としての利便性を向上させた. また,光学処理における並列処理能力を向上させるための検討および,評価を行った.従来処理では,1画素に1点の剰余演算結果を生成していた.光の大域処理の性質を鑑み,画素数以上の並列演算を実現する手法を考案し,その有効性を示した.実現できる並列度は対象整数に依存するものの,画素の8倍程度の並列度を達成することを示した.さらに,個々の乗算剰余演算の精度は反射鏡の最小傾き間隔に依存するが,べき乗剰余演算への拡張とその周期を抽出するための大域処理ととらえた場合,現状のステージの精度においても,大規模因数分解に適用できることを解析,実験の両面から確認した. 以上の検討により,現状において公開鍵暗号の安全性に影響を及ぼすシステムを提示できていないものの,ナチュラルコンピューティングのブレークスルーとなる結果を数多く提示できたと考えている.
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