研究概要 |
人工関節用超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)において,フレーク状の磨耗紛を伴ったデラミネーション破壊が多数報告されている.デラミネーション破壊は,摺動表面下に生じる繰り返し応力によって,表面下で疲労き裂が進展し,層状のはく離が生じる現象であり,滅菌に用いられるγ線照射と,その後の酸化劣化反応によって助長されると考えられているが,その発生メカニズムについては明らかになっていない.また,酸化防止剤として知られているビタミンEを添加することによって,UHMWPEの酸化劣化を低減し,デラミネーション破壊を抑制しようとする試みもなされているが,その抑制機構は不明である.疲労摩耗現象は非常に複雑であるため,本研究では,疲労摩耗現象における損傷を微視的な材料の引張-引張疲労破壊現象ととらえ,UHMWPEの疲労き裂進展特性に及ぼす,γ線照射,酸化劣化やビタミンE添加の影響を検討し,これにより,人工関節用超高分子量ポリエチレンの信頼性を確保することを目的とした.フーリエ変換赤外吸収分光測定結果から,γ線照射を行った後酸化促進試験を行った試料では,表面が酸化していたのに対して,ビタミンE添加材では,酸化が抑制されていた.CT (Compact Tension)試験片を用いた疲労き裂進展試験の結果を,試験中の試験片の塑性変形による影響を除くため疲労J積分値ΔJを用いて整理した結果,処女材,ビタミンE添加材に比べ,γ線照射を行った後酸化促進試験を行った試料では,同じき裂進展速度に対してのΔJ値が低下していた.それに対して,ビタミンE添加材に対してγ線照射を行った後酸化促進試験を行った試料のき裂進展曲線は処女材,ビタミンE添加材とγ線照射を行った後酸化促進試験を行った試料の間に位置していたことからビタミンEを添加することによるΔJ値低下の軽減が見られた.つまり,ビタミンE添加は,超高分子量ポリエチレンのγ線照射と酸化劣化によるき裂進展抵抗の低下を抑制する働きがあることが,定量的に明らかになった.
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