研究概要 |
本年度は疲労強度特性に与えるアーク電流の影響およびドロップレット分布の相違の影響について検討を行い,コーティングによるさらなる強度向上を目指した. まず,アーク電流が疲労強度特性に与える影響を検討した.バイアス電圧を-300Vに固定した上で,アーク放電する下限界電流50Aと装置の上限界アーク電流200AでそれぞれCrN薄膜を成膜し,三点曲げ疲労試験を行った.その結果,低アーク電流材の疲労限度は高アーク電流材よりも高くなった.また,有限寿命域でも低アーク電流材の疲労強度の方が高くなることがわかった.しかしながら,低アーク電流材の疲労限度は基材とほぼ同等であり,前年度に得られた低バイアス電圧材のような明確な疲労限度の向上は認められなかった.したがって実用上の成膜条件の範囲内ではバイアス電圧の方が疲労強度に対して敏感であることが明らかになった. 次に疲労限度に大きな差が生じた高バイアス材,低バイアス材を用い,薄膜表面のドロップレット分布の測定および断面観察による膜中でのドロップレットの存在形態を調べた.その結果,表面で観察された最大粒径はいずれの条件でも5μmと同程度であった.しかし,2μm以下の粒径で粒数は大きく異なり,低バイアス材の方が4〜6倍多かった.また,試験片断面を研磨して膜内部のドロップレットの状態を観察したところ,膜内部には直径数μm程度の比較的大きなもののみが存在すること,バイアス電圧による明白な分布形態の違いが認められないことがわかった.疲労過程中の試験片表面のレプリカ観察の結果から,ドロップレットは疲労き裂の起点であると同時に一部のドロップレットでき裂の進展が止まっている様子や進展方向が変わる様子が観察された.これは膜に埋没したドロップレットが疲労き裂進展の抑制原因であることを示唆しており,疲労限度向上の一要因であることを示唆している.
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