研究概要 |
申請者は,毛細血管を模擬した微小流路における血球流動の観察システムを構築した.流路はPDMSで作成したが,ガラスが濡れた状態ではPDMSの吸着力が著しく減少したため,ガラスとPDMSを圧着させるためのホルダーを作成した.その結果,好中球を流路に還流させることに成功した.ただし,実験観察において,好中球が流路壁面に付着して流れない場合が多く見られた.そのため,まず,好中球の流路への付着を防ぐコーティング手法を検討した.傾斜遠心顕微鏡を用いて解析を行った結果,MPCポリマーによるコーティングによって,流路構成部材と好中球の付着を著しく減少させることが可能となった.また,これを用いて部材と好中球との摩擦特性の計測も行った.その結果,好中球は,赤血球と異なり,静止摩擦が働くことを示した.また,摩擦特性に強い非線形を示すことを確認した.これは,血球が部材表面を移動する形態が,血球に掛かる遠心力の大きさによって異なるためであると推察される.すなわち,遠心力が比較的小さい場合は部材表面を転がり,遠心力が大きくなると滑って移動すると考えられる. 流路をMPCポリマーでコーティングし,種々の形状の流路における好中球の流動特性を,血球の流路通過時間に着目して計測した.そして,平成17年度に構築した数学モデルとの比較を行い,その妥当性を検討した.ただし,設計した微小流路の幅は5μmであったが,工作精度の限界のために3.5〜7μmと大きな開きがあったため,定量的な比較にまでは到達しなかった.これらの結果は国内外の専門学会において発表を行った. また,毛細血管ネットワークにおける好中球の流動を数値的に解析した.種々のパラメータが血球の流動パターンに与える影響を解析し,その結果は現在専門雑誌に投稿中である.
|