研究概要 |
高出力密度,低温作動等の特徴を有する固体高分子形燃料電池(PEFC)は,次世代の自動車用動力源や家庭用分散電源として開発が期待されている.しかしながら,高性能化に向けて解決すべき課題は多く,その中に,カソード側での水分管理がある.特に,カソード側においては,生成水がガス拡散層(Gas Diffusion Layer, GDL)内で凝縮し,酸素の供給を阻害するというフラッディング現象が著しくなり,その結果,PEFCセルの出力低下を引き起こす. そこで本研究では,高精細デジタル光学顕微鏡を用いることにより,発電モードでのPEFCセルカソード側ガス拡散層内部における水分の存在状態およびミクロ挙動の直接可視化計測を行った.その結果,拡散層内部での水分の凝縮は,ガス流路の下流側で生じやすく,凝縮水の水分量も下流側の方が多くなることが明らかになった. さらに,カソード側におけるフラッディング現象を回避するため,水分排出機能を有する新規電極構造を提案し,その効果について実験的に検証した.本研究課題では,水分誘導経路としてのスリット構造を有するガス拡散層を製作し,スリット付拡散層を採用したPEFCセルのカソード内水分計測および性能評価試験を行った.その結果,水分凝縮の著しいカソード流路の下流側にスリットを設けることにより,拡散層内部で凝縮した水分が迅速にスリット側へ排水されることが可視化観察により示された.また,PEFCセル起動運転時において,スリットを有さない拡散層を用いた場合は,負荷を加えた後,セル電圧は著しく低下するが,スリットを有する拡散層を用いた場合は,セル電圧はほとんど低下せず,安定して発電が継続されることが明らかとなった.これは,拡散層内部の凝縮水の排出が迅速化され,フラッディング現象が抑制されていることによると考えられる.
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