研究概要 |
本研究は電界印加共蒸着による有機ナノ電界効果トランジスタの作製と回路化技術の開発を目的として行った。本年度は有機ナノトランジスタに関して最もベースになる研究成果をApplied Physics Letter誌に投稿し、掲載された(Appl.Phys.Lett.90,062101) (1)ドナー分子のテトラチアフルバレン(TTF)とアクセプタ分子テトラシアノキノジメタン(TCNQ)を電界下で共蒸着すると、電界配向成長したワイヤ状のTTF-TCNQ有機導体結晶が成長する。対向する電極から成長した2本のTTF-TCNQワイヤは自己整合的に接合し、その接合部分にはナノメートルサイズのトランジスタが形成される。しかし、従来の作製方法では歩留まりが低く、新たな作製法とデバイス特性の制御手法が求められていた。昨年度の研究から得られた知見に基づいて、TTF-TCNQワイヤ接合後に適正量に調整した電流を流すことによってトラジスタ特性が変化することを確かめた。また、制御電流を流す時間を適正にとることで、トランジスタ特性を示さなかったデバイスに対しても、良好なトランジスタ特性を回復することが可能であることを示した。この成果は先にApplied Physics Letter誌に掲載された論文の直接的な続編として、同じくApplied Physics Letter誌に投稿する予定である。 (2)TTF-TCNQ有機導体ワイヤによる回路形成技術のために、電極の材料、電極の形状、電極端のエッジ形状による結晶成長の違いを詳細に検討した。電極の材料に関しては、Au, Ptにおいて特徴的な成長がみられた。一方、AlやCrではワイヤ成長はほとんど起こらないことが確かめられた。また、電極形状を模形にすることによって電界強度の集中が起こり、ワイヤの成長が促されることを確かめた。これらの知見に基づいて、ワイヤを成長させたい位置はAu, Ptなどの材料を用いて撰形状とし、成長を抑制したい領域はAl, Crなどで被覆することで、有機導体ワイヤの成長位置制御への展開が可能であることを示した。さらにより自由な回路形成技術のためには屈曲ワイヤの形成が大きな課題であるが、これに関しては今後も継続して研究を行う予定である。
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