研究概要 |
近年のICの高速・高密度実装化と低消費電力化により,静電気放電(ESD : Electrostatic discharge)が引き起こす過渡電磁雑音による電子機器の誤動作が問題となっている。研究代表者は研究期間内において,帯電人体からの放電電流の発生機構解明を目的として,金属棒を握った帯電人体からの放電電流の計算モデルを提案した。同モデルから,本来は直接測定できない帯電人体の接触過程における放電電圧波形が数値的に計算できることを示し,特に600V以下の帯電電圧においては金属棒の接近速度に拘わらず,おおよそ一定の絶縁破壊電界(2×10^7V/m)で放電することを明らかにした。平成18年度における研究では,まず上述の電流計算モデルから放電電圧波形を導出する際の数値計算法が計算波形にどのような影響をおよぼすかを考察した。つぎに,人体からの放電電流を広帯域の12GHzディジタルオシロスコープ(40GHzサンプリング)で新たに測定し,電流計算モデルから求められる放電電圧波形をフーリエ逆変換とたたみ込み積分の数値計算法で計算した。その結果,数学的には等価な計算式であっても,両手法による数値計算結果は厳密には異なるものの,放電直後は概ね一致し,同計算波形から火花に続きアーク放電が発生していることを確認した。結果として,100Vから1000Vまでの帯電電圧で推定される火花長は20〜30[μm],絶縁破壊電界は(2〜3)×10^7[V/m]であること,これらの推定値は,特に600V以上の帯電電圧においては,他の研究者が針対平板電極を用いて実験的に求めた結果や,Paschen則から導かれる値とほぼ同程度であること,などがわかった。
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