研究概要 |
本研究では,集中豪雨の発生抑止を目的とした新たな気象制御手法の開発を念頭に,線状対流系を対象とした実験的な数値シミュレーションを行った.外部から与えられた擾乱に対して降水システムがどのような挙動を示すかを明らかにすることによって,集中豪雨の発生・維持機構に関する新たな基礎的知見を得ることを目指す.外部擾乱を与える手段として,本研究では特定地域の地形形状を人工的に変化させるという方法を採用した. 本研究の結果,地形形状の変化が積雲の組織化を強化あるいは弱化することで,領域内の降水の増減をもたらすことが示された.増減の程度は地形変化を与える場所や変化の大きさによって異なり,積雲発生地点やその風上側に変化を与えた場合は,比較的小さな標高の増加でも領域内の最大降水量に±20%程度の変化をもたらす.領域内の水蒸気量は一定であるため,地形変化が雨の総量に与える影響は小さいが,空間的な降水の集中度が地形変化によって大きく変化することが分かった. また,地形標高の増加によって最大降水量が減少するケースでは,流跡線解析によって風速場に時間的な乱れが生じていることが示された.風速場の変動が降水システムの停滞を妨げ,降水の集中度が緩和されることによって最大降水量が減少したと考えられる. さらに,上記で得られた知見の一般性を見極めるため,異なる大気条件や他の領域でも同様の結果が得られるかを検討したところ,概ね同様な結果が得られることが示され,知見の一般性を確認することができた.今後はさらに詳細な解析を行い,降水システムの挙動と地形条件・大気条件との関係を明らかにするとともに,地形形状の変化がもたらす降水の増減がどのようなメカニズムで生じているかをさらに詳しく検討する予定である.
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