研究概要 |
日本社会では多くの場合,通勤手当の負担など多くの通勤支援を企業が実施している。そのため,通勤行動の変化は必ずしも通勤者自体の意志では決定していない。本研究では,そのような視点に立ち,交通需要管理(TDM)施策の浸透を図るため,企業の通勤支援に対する実態の把握,及び企業行動を明示的に取り込んだ理論モデルの構築を目的に実施した。 本年度は,ピーク・ロード・プライシングなどの通勤料金の変更に対して企業がどの程度料金負担の柔軟性を持っているか,またフレックスタイムなどの施策の実施意向などを企業アンケートにより明らかにした。分析結果より,通勤手当として約9割の企業が通勤費用を支給していること,さらに有料道路の料金負担についても13%の企業が支給していることを明らかにした。さらに,TDM施策の推進により様々な効果があるとする企業が多くある一方で,具体的なTDM施策に取り組みたいとする企業は,有料道路の料金負担も行う意向がある。そのため,料金政策を含む交通計画では,料金政策を単独の施策として考えるだけでなく,TDM施策のパッケージの一つとして捉え,総合的に混雑緩和を図るべきであることを明らかにした。 また,通勤手当負担,企業の生産性などを明示的に組み込んだ企業・通勤者行動モデルを作成し,各種TDM施策の実施による企業行動の変化を分析しTDM施策の効果を評価できる理論モデルを作成した。数値計算により,社会的厚生水準の面では,個人の料金負担の点から通勤手当を負担する企業が少ないほど,より好ましいと考えられる。一方で,総料金収入の面では,通勤手当を負担する企業が多いほど,より総料金収入が大きくなることを示した。 以上の研究成果より,これまでの交通計画であまり考慮されてこなかった企業の通勤支援の意向を,今後の交通計画,特に料金政策を含む交通計画で扱う重要性を明らかにした。
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