研究概要 |
当該年度は,対象遺構を有するマレイシア連邦・ジョホール州に現存する近代王宮の成立から現在に至る出来事を,時間軸と社会情勢の双方から整理し,また,マレイの王宮儀式と建築空間の相関性に関する史的考察を進めた. 現地の歴史研究者及び往事の植民地政府高官による文献資料から,近代ジョホール王家の歴史をまとめるとともに王宮の歴史的変遷を明らかとした.当地では,王宮を取り巻く社会状況の一つとして,ソシアルクラブが認められるが,マレイの代表である王家,英国植民地政府,そして経済の実権を握っていた華僑の秘密結社が独自の共同体を組織していた.それらは,20世紀に入るとそれぞれを結ぶ媒体が適宜形成されるようになり,王宮で行われる儀典・儀式が一定の役割を演じていた. これらの史実を収集することで,ジョホール王宮の特徴を明らかとした.また,隣接するシンガポールの住宅建築の歴史について,文献読解とシンガポール・ナショナル・アーカイヴ(National Archive Singapore)に所蔵されている図面を基にまとめた.英国式コロニアル建築の様式の東南アジアへの伝播について,翻訳作業を通じて理解を深めた. それらを総合すれば,王宮の建てられた時代の建築生産を取り巻く社会環境と細部の様式の変遷を明らかとなる. 更に,現代のジョホール州における文化財を取り巻く環境について,現地政府や研究機関,非営利組織(NPO)等の近年の活動とその動向について追った.それらの個別事例として,ジョホール王宮保存事業に関する現地の取り組みについて検証した.また,先行する我が国における近代建築の修復事業を参照しながら,バライ・ザハラ修復事業計画への政策提言を用意した.
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