従来有機トランジスタの駆動力は結晶粒界により律速していると考えられていた。しかし、粒界の状態にも依存するが一概に粒界律速ではないことも示され始めていることから、本年度は有機半導体の単一グレイン化に特化せず、伝導機構としてのチャネルに関する研究を進めた。 まず、チャネルと逆極性の有機半導体材料を電極/有機半導体間に挿入することで、閾電圧を制御できる可能性を示した。p型有機半導体のペンタセン(C22H14)を用いたトップコンタクト型のFETと同構造の電極/ペンタセン間にn型有機半導体のフッ素化ペンタセン(C22F14)を挿入した構造のFETの閾電圧を比較し、閾電圧が正方向にシフトすることが確認された。この原理はゲート電圧が殆ど印加されていない領域で電極より注入された電子がフッ素化ペンタセン内でトラップされ、ペンタセンへのホールの注入障壁を低下させるため、ペンタセン内のホールトラップが速やかに埋められることによりチャネル形成に必要な負電圧量を低下させていると推定される。 また、有機半導体を蒸着形成する基板表面により有機半導体/ゲート絶縁膜界面に生じるトラップ量と共に結晶性が異なることからその相関の重要性が示された。SiO2、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理によりCH3終端したSiO2、PMMA(ポリメチルメタクリレート)塗布SiO2上にp型有機半導体ペンタセン膜、電極を形成しId-Vg、C-V特性を評価したところ電圧に対するヒステリシスが基板処理によって大きく異なることが分かった(ヒステリシス:PMMA<<others)。このヒステリシスの起源は界面、若しくは界面近傍のホールトラップであることが示された。更にPMMA塗布試料は単一の結晶相のみから成り、長距離秩序性も高いことが分かった。 これら研究成果は9月の固体素子会議、3月の応用物理学会において報告することができた。
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