研究概要 |
現在、日本では、軽量かつ高強度を有すチタンおよびチタン合金が硬組織代替材料として注目されている。既存の生体用チタン系材料としてα+β型チタン合金であるTi-6Al-4V ELI合金が主に使用されている。しかし、近年、その構成元素であるVが生体に対して毒性を示すことや、骨に対して同合金の弾性率が高く骨萎縮(老人の骨のようにやせ細る現象)など、その使用が疑問視されている。そのため、人にやさしくしなやかな新しい生体用金属材料の開発が急務とされている。そこで、生体に対して毒性を示さない元素で構成された新しい合金開発が行われ、我々の開発したTi-Nb-Ta-Zr系合金は、既存の生体用金属材料に比べ著しく低い弾性率を示すことが実証されている。また、これまでの研究において本合金系は、単純な加工および熱処理により、その諸特性が劇的に変化することが実証されている。しかし、そのメカニズムについては明瞭化されていないのが現状である。そこで、本研究では、Ti-29Nb-13Ta-4.6Zr(TNTZ□合金を基本組成に定め、TNTZ合金および同合金の添加元素量を種々変化させた合金を溶う製法により作製後、単純加工(圧延あるいは線引き)を含む加工熱処理を施した場合にける力学的特性とミクロ組織の変化を調査・検討した。 溶体化処理を施したTi-29Nb-13Ta-46Zr(TNTZ_<ST>)合金鍛造材のミクロ組織は,平均粒直径25μmをのβ単相であるのに対して,1.0mmに線引き加工したTNTZ_<ST>(TNTZ_<d1.0>)合金のそれは線引き方向に伸長した針状のβ結晶粒からなる。TNTZ_<d1.0>合金の弾性率(約50GPa)はTNTZ_<d0.3>合金(TNTZ_<d1.0>合金をさらに0.3mmに線引き加工)のそれ(約55GPa)よりやや小さい。TNTZ_<d1.0>合金およびTNTZ_<d0.3>合金の引張強さおよび0.2%耐力は,それぞれ740MPaおよび490MPa,800MPaおよび410MPaである.一方,TNTZ_<d1.0>合金およびTNTZ_<d0.3>合金の伸びはそれぞれ5%程度である。切欠き疲労試験(切欠きの応力集中係数:2.15)より得られたTNTZ_<d1.0>合金の疲労限は,250MPaである。TNTZ_<d1.0>合金およびTNTZ_<d0.3>合金の負荷・除荷曲線は,いずれも見かけの降伏後においても弾性変形領域が存在する特異な変形挙動を示す,この場合,TNTZ_<d1.0>合金およびTNTZ_<d0.3>合金の最大弾性ひずみ量は,それぞれ2.8%および2.9%であり,いずれもTNTZ_<ST>合金それの2倍程度の値を示す。
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