研究概要 |
鉄鋼材料の機械的性質(強度-延性バランス)向上を目的に、公称粒径10〜100μmのIF鋼の引張り特性に及ぼす混粒組織の影響を調査した。その結果、組織中の粗大な結晶粒が降伏強度よりも低い応力で降伏(ミクロ降伏)しているにもかかわらず、その降伏強度は公称粒径と降伏強度の関係を表すHall-Petchの関係に従うことが明らかとなった。このことは、ミクロ降伏した結晶粒の割合がある一定値に達した時に、材料(試験片)が降伏(マクロ降伏)することを示しており、組織中に存在する粗大な結晶粒は、降伏強度の大きな低下因子と成らないことを意味している。そして、幾何学的な計算の結果、組織中の70〜80vol.%の結晶粒がミクロ降伏した時、マクロ降伏が生じることも予想された。一方、明瞭な挙動を把握することは出来なかったものの、組織の混粒化はマクロ降伏後の加工硬化や延性(伸び)に影響を及ぼすことが確認され、混粒化による機械的性質の向上が十分に期待できると考えられる。実際に、粒径0.3Fm以下の超微細粒組織を有するCuでは、混粒組織になることで強度が若干低下するものの延性が増大し、強度-延性バランスが大幅に改善されるとの報告がなされている(Yinmin Wang, Mingwei Chen, Fenghua Zhou and En Ma ; NATURE VOL419,(2002),p912)。通常の粒径レベルでは生じ得ないこのような顕著な特性変化が生じたことは、混粒化の影響は結晶粒が微細になるほど顕著になることを示唆している。したがって、微細粒領域における組織の混粒化の有効性については、今後さらに広範囲での詳細な再調査を実施し、明らかにされるべき事項であろう。
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