前年度に引き続き、廃水中の希薄有害イオンの効率的な除去技術の確立を目指し、廃水処理における希薄有害元素の共沈除去メカニズムの解明を試みた。我々は過去の検討で、従来「共沈現象」と称されてきた希薄有害イオンの除去に関する一連の実験事実は、Fe(OH)3またはAl(OH)3への表面吸着現象と捉えることで説明できることを報告した。一方で、水酸化物への吸着現象は、表面錯体モデルによって良好に再現できることが知られている。しかし、過去に報告されている表面錯体モデルの検討例の多くは、別途生成させた酸化物表面に対するものであり、本研究で対象とする廃水処理システムのように、共存イオンが存在する中で生成する非晶質状の水酸化物とは表面特性が異なると考えられる。イオン強度、電解質、反応時間等の実験条件を等しくした、As(V)、Cr(VI)、Se(VI)、Fと水酸化第二鉄塩との共沈実験と、表面錯体モデルを用いた解析結果とを比較したところ、Cr(VI)、Se(VI)、Fでは両者の整合性が良好であったのに対し、As(V)は実験結果の方が解析結果よりも除去量が著しく大きい傾向が得られた。また、As(V)とCr(VI)において、予め生成したGoethite粒子への吸着実験を別途行ったところ、Cr(VI)では共沈実験と吸着実験との結果に大きな差異が見られなかったのに対し、As(V)では両者に大きな差異が見られた。さらに、両者の共沈実験より吸着等温線を作成したところ、Cr(VI)ではラングミュア型を示したのに対し、As(V)ではS字型を示し、両者の共沈メカニズムが異なることが示唆された。As(V)はCr(VI)に比べ、水酸化第二鉄に対する親和性が大きいため、吸着に加え表面沈殿等が生じているものと考えられる。
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