研究概要 |
本年度から建設が開始され,10年後に実験が開始されるITERのダイバータ板材として炭素とタングステンとの併用が検討されています.しかしながら,この併用により混成層を引起こし,プラズマ対向壁材としての十分な機能が果たしえるのか,問題視されています.そこで本研究は,付着した炭素不純物により,どのようにタングステンの対向壁材としての表面物性や機能が変化するのか,また,その背後にある要因を明らかにしました.特に,炭素不純物密度の違いによる炭素不純物の熱的振舞い(偏析,化学スパッタリング,拡散)について,次のような知見を得るに至りました. (1)水素プラズマ中に含まれる炭素不純物密度が低い場合(0.1%以下),タングステン表面から数十nmの深さにタングステンカーバイト(WC)が形成されます(表面上はタングステン).これは,水素イオンと炭素不純物の相乗効果から齎される付着炭素の物理的振舞いであるリコイル・インプランテーション(recoil implantation)によるものであり,熱的振舞いにより説明する事が出来ません. (2)炭素不純物密度が高い場合(0.8%以上)では,タングステン表面上に炭素とWCの混成層が形成され,表面から深くなると炭素がなくなりWCのみが形成されます.これは,化学スパッタリングによる若干の表面上の炭素の減少があるものの,ほとんど付着炭素の偏析効果により説明することができます.また,通常の材料温度領域においては,拡散効果は寄与しないことがわかりました. (3)タングステンの特徴をより理解するために,第一壁の対向壁材として期待されているステンレス鋼(F82H)の結果と比較を行いますと,F82Hでは炭化物が形成されなく,不純物炭素の化学スパッタリングと拡散効果が支配的になることがわかります.この結果は,タングステンとは対照的であるので,タングステンに対して両効果が現れない理由として,WCの形成が大きく寄与していることを意味しています.
|