研究概要 |
本研究では,内部被ばくによる合理的な臓器線量評価法の開発を目的にして,日本原子力研究開発機構で開発した,日本人成人男性及び女性の精密人体数値ファントムについて,電磁カスケードコードを用いたモンテカルロ計算により,陽電子放出核種に対する臓器の線量評価を実施した。陽電子についてはそのベータ線スペクトル形状を,陽電子の消滅にともなって発生する消滅ガンマ線についてはその発生位置を適切に考慮した。その結果,^<11>C, ^<13>N, ^<15>O, ^<18>Fのような陽電子放出核種が脳,心臓および膀胱などの臓器に沈着した場合,ベータ線の平均エネルギーが大きいほど線量が大きくなること,従来の医療分野で利用される数値ファントムを用いた線量評価結果が個々人の線量に対して適するとは限らないこと(臓器の重量によって線量が変化すること)などを定量的に明らかにした。特に,線源/標的臓器が脳,心臓の場合,消滅ガンマ線による線量寄与に比べ,ベータ線による寄与が大きいことがわかった。また,陽電子放出核種に対する膀胱の線量について,精密人体数値ファントムおよびモンテカルロ法を用いた評価手法により解析した結果,従来の簡易評価手法(放出エネルギーの半分が吸収される評価手法)による線量結果が極めて過大評価であること,たとえば,^<18>Fの場合には10倍程度の過大評価になることを明らかにした。以上により,個々人に対応する,信頼性の高い内部被ばく臓器線量評価法の確立に目途を立てるとともに,新しい放射線影響指標開発のために今後研究を予定している人体臓器内の幹細胞損傷分布の解明に資することができた。
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