研究課題
若手研究(B)
相模湾深海域の水深の異なる二地点(710m・1450m)にて採取された底性生物や堆積物などについて、昨年度に引き続き有機炭素・窒素安定同位体比測定と、補足試料の採取・分析が行われた。微小生物群のうち底生有孔虫は各サンプリング地点の各種類ごとに数十〜数百個体が選別・収集され、種類ごとの安定同位体比測定が行われ、この結果有孔虫の種類ごとの窒素同位体比分布が、世界で始めて明らかとなった。得られたC-N安定同位体比ダイアグラムより以下のことが明らかとなった。1)二つの地点の生物窒素循環において、堆積物や沈降粒子に含まれる有機物はまず底生有孔虫群集に利用され、さらにゴカイなどの大型底生生物に利用されていた。2)有孔虫の近縁のグロミアの一種は、デトライタス食と考えられているにもかかわらず、主要な体組織とされる外膜部分の窒素同位体比が10-12‰とゴカイ類とほぼ同じとなり、他の底生有孔虫とは異なる傾向を示した。3)有孔虫群集の各種類とも窒素・炭素同位体比の双方で1-2‰の季節変動が認められた。その傾向は種類ごとにそれぞれ異なるものであった。(変動の原因については現時点では明確となっていない。)深海底の底生性有孔虫の種毎の窒素安定同位体比分布は、個々の底生性有孔虫の生態系内での位置関係の解明のほか、共生細菌を含めた深海底での物質循環系の解析においても有用な知見となることが期待された。また、本研究の推進に不可欠であった超微量窒素安定同位体比分析技術については、本研究に伴って行われた技術開発により、市販型機器より二桁の感度向上が達成された。この結果、有機炭素・窒素安定同位体比測定に必要な試料量は、窒素または炭素量でそれぞれ200ナノグラムおよび300ナノグラムと大幅に縮小された。超微量試料での窒素同位体比測定が可能となったことで、今後の底生有孔虫やグロミア種における共生メカニズム研究へ、大きく寄与することが出来ると考えている。今年度の成果は現在、国際誌での発表にむけて準備中である。
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Marine Ecology Progress Series
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