研究概要 |
1.前年度に研究代表者は,従来の知見では魚類の海水型イオン排出性塩類細胞にのみ発現するとされていたcation chloride cotransporter (CCC)が淡水型イオン吸収性塩類細胞にも発現し機能していることを示唆するデータを得た.本年度は,まずティラピアの鰓から4種類のCCCアイソフォームをクローニングした.次に,real-time PCRによってmRNAのtissue distributionと淡水-海水移行時の継時変化を測定したところ,淡水および海水の鰓・卵黄嚢上皮で強く発現するCCCがそれぞれ1種類ずつ存在することが明らかになった.さらに,この2種類のCCCを特異的に認識できる抗体を作成し免疫染色を行ったところ,2種類のCCCは同一細胞に局在せず,淡水型塩類細胞のapical membraneおよび海水型塩類細胞のbasolateral membraneにそれぞれ特異的に局在することが明らかとなった.これらの結果は,これまで混迷を極めていた塩類細胞のイオン吸収機構研究に解明の糸口を与えるものである. 2.その生態的特徴から海水耐性が異なると予測されるサケ科魚類3種,レイクトラウト,ブルックトラウトおよび大西洋サケについて,海水耐性と鰓のイオン輸送体の局在様式等を比較したところ,レイクトラウトとブルックトラウトはある程度の海水適応力を備えているものの,淡水海水移行時における塩類細胞の分布様式の変化が大西洋サケと大きく異なることが明らかとなった.レイクトラウトとブルックトラウトはサケ科の中で最も原始的とされるSalvelinus属に属しているため,これら2種の海水適応様式はサケ科魚類の祖先種が備えていたものと相同である可能性が考えられる.この成果をJ Exp Biol誌上で公表した.
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