研究概要 |
昆虫類の高次系統を考察するべく,比較発生学的アプローチによる研究を展開した。特に,カカトアルキ目昆虫類を中心とした研究を行った。前年度までに採取・確保したサンプルを基に,胚発生や卵形態に関する知見を蓄積させ,原始的有翅昆虫類(直翅系昆虫類や旧翅類昆虫類)における発生プロセスとの比較検討を実施した。 系統解析において鍵となるような発生形質:胚発生における胚の陥入anatrepsis,胚反転katatrepsisといった胚運動blastokinesisのシステムに関しては,初年度および18年度より知見を深め,この他,卵形成や卵形態(特に卵門micropyleなどの微細構造)の比較から,カカトアルキ目とガロアムシ目の類縁性を議論してきた。典型的な短胚型発生をし,はじめは卵内に浅く陥入し,その後に平行的に卵内に潜り込み,卵中央に定位することなど,ガロアムシ目との共通性が強く認められた。一方で,胚反転前のステージでありながらも,胚体としては孵化直前のレベルに近いほどによく形態形成が進んでいること(遅延的な胚反転)など,他の昆虫類の胚発生には認められない,本目独自の形質も認められた。この特殊性は,長く厳しい乾季を凌ぐ上で重要な形質であると考えられると共に,カカトアルキ目の単系統性を示唆する重要な形質の一つと言える。 これらの研究成果は,海外の研究グループによる頭部形態や精子形成,分子系統解析などの研究からの考察とも矛盾なく,本研究における成果の妥当性が示唆される。これらの知見を,20年度に開催される国際昆虫学会で発表する予定である。また,本研究の成果のうち,既に学術誌への公表の済んだ内容に関しては,出版社からの依頼により,19年11月に書籍として出版した。
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