研究概要 |
昨年度の研究成果を発展・拡充し、本年度は以下の成果を得た。 1.C.elegans遺伝子配列情報の解析効率を、解析及び情報共有用サーバーPCのハードウェア増強やシステムの至適化によって向上するとともに、ローカルで管理する遺伝子情報データベースを拡大し、線虫(C.elegans, C.briggsae)、酵母、ショウジョウバエ、哺乳類(マウス、ウシ、ヒト等)を含む、より広範な遺伝子情報の自動管理と解析を可能とした。 2.HMMERやRPS-BLASTを用いた多種生物種問の遺伝子及びアミノ酸配列の相同性比較解析では、C.elegans全遺伝子(20,000)の約10%が何らかの複合糖質関連モチーフを有すると予想された。この結果を既存の複合糖質関連データベースとの比較や、解析条件の最適化によって更に絞り込み、約450の遺伝子をC.elegans複合糖質関連因子の候補遺伝子として選定した。これに産業技術総合研究所糖鎖工学センター・成松久博士のグループが解析したヒト糖転移酵素のC.elegansオーソログ145遺伝子を加え、冗長性を除いた中から157遺伝子に対して、線虫ソーターを用いた網羅的・複合的RNAiによる機能阻害と、欠失型変異体株を用いた表現型の観察を行った。 3.上記157複合糖質関連遺伝子の内、何らかの表現型異常が観察されたものは、変異体株とRNAiによる遺伝子機能阻害を合わせて62%、RNAiによる遺伝子機能阻害単独でも31%と非常に高い割合であった。 4.致死の表現型も観察され(約8%)、新規の例としてコンドロイチンのコア蛋白質遺伝子 (cpg-1,cpg-2)複合機能阻害による細胞質分裂異常と初期胚致死を確認した。また、他のグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の合成酵素遺伝子rib-1,rib-2の機能阻害が、原腸形成期以降に異常を生じ、形態形成不全を伴って後期胚致死に至るという事実も明らかにし、モデル生物である線虫とバイオインフォマティクスを用いて、多細胞生物の生体内における複合糖質の重要性と新しい役割の存在を示した。
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