研究概要 |
本研究課題は、紫外線照射などのストレスに応じて、通常、細胞質に多く局在する核移行シグナル(Nuclear Localization Signal : NLS)受容体分子importin αが、すみやかに(数分以内に)核集積することを発見したことに端を発する。Importin αはNLSと輸送担体importin βとをつなぐアダプター分子として理解され、NLSを核へ輸送した後は、核内に存在するCAS(exportin 2)と低分子量Gタンパク質Ranとの複合体の形で細胞質に戻されることが分かっている。我々は、主に核に存在するRanがストレスに応じて細胞質に遊出し、結果として核内におけるimportin α/CAS/Ranによる3者複合体の形成効率が低下することでimportin αの核内集積を誘導すうことを明らかにしてきた。さらに最近、我々はこのRanの細胞質遊出が、ストレスによる細胞内ATP量の減少が引き金となって起こることを見出した(Yasuda et al., Exp.Cell Res.,2005)。 一旦、核に集積したimportin αは、Ranを過剰に供給しても細胞質に移行せず核に留まる。さらに、核内蓄積したimportin αは、DNaseI処理により遊離してくる(未発表)。これらのことは、ストレス応答的に核内に集積したimportin αがクロマチン様構造体と結合し、ゲノムの修復や機能維持、さらにはストレス応答時の転写調節などクロマチン機能に関わっていることを示唆している。そこで、本研究では、importin αが、ストレスに応じて核内に大量に移行したこと自体が、核内分子との結合を誘発し、機能の発現を導いていると想定して研究を開始した。まず、CASとの結合領域に変異をいれた点変異体を作製し、培養細胞に導入してimportin αを強制的に核内にとどめるシステムを構築した。この細胞よりRNAを抽出し、DNAマイクロアレイを用いて変動する遺伝子を網羅的に探索した結果、発現が2倍以上増加する遺伝子が2種類に対して、減少する遺伝子が60種以上も存在していた。このことは、強制的に核に局在させたimportin αが、転写抑制機構に関与している可能性を示唆している。特に興味深いことに、H2A,H2Bなどヒストンの転写量が顕著に低下していた。今後は、importin αの核内集積がヒストンの転写量減少にどのように関与しているか、そのメカニズムを明らかにしていくことで細胞核におけるストレス応答の分子機構を解明していく。
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