研究概要 |
我々はショウジョウバエの視覚中枢の形成過程を神経発生、回路形成のモデル系として用いている。ショウジョウバエの視覚中枢では三令幼虫期に分化した視神経が順次脳に投射し、三日月型のラミナが形成される。同時に後方から移動したグリア細胞が層構造を形成し、視神経の投射パターンの形成に重要な役割を果たす。平成17年度においてはDppがラミナグリアの形成に果たす役割を検討した。その結果、Dppがこれらのグリア細胞の分化を制御し、これを介して視神経の正しい投射に必要であることを示唆する結果を得た。またこの過程で、Dppはgcmの発現制御を介してラミナグリアの分化に役割を果たすことを示唆する結果を得た.これらの結果はDevelopment誌に発表した(Yoshida S, Soustelle L, Giangrande A, Umetsu D, Murakami S, Yasugi T, Awasaki T, Ito K, Sato M, Tabata T.Development 132,4587-98(2005)). また、本研究室ではpiggybac転移因子を用いたエンハンサートラップスクリーニングを組織的に行っており、その中で視覚中枢、特にラミナ領域に特徴的な発現を示す系統が複数得られたため、平成18年度は主にこれらについて解析を行った.現在までに得られた系統のうち、本研究では特にラミナ領域(ラミナ神経、ラミナグリア)に特異的に発現が認められる98aと呼ばれる系統が得られた.トランスポゾンの挿入箇所を同定したところ、98aについてはptp61Fと呼ばれるチロシン特異的脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の近傍にトラップベクターの挿入が確認された.ptp61Fに関しては機能欠失変異体を制作し、これを用いて視覚中枢におけるこの遺伝子の役割を観察した.これまでの変異体の解析の結果、変異クローンではラミナ神経分化の初期マーカーであるDachshundの発現は認められるが、より分化した段階のマーカーであるElavの発現が誘導されないことが明らかになった.Elavの発現およびラミナ神経の成熟にはEGFシグナリングが重要な役割を果たすことが明らかにされている(Huang et al.,Cell 95,693-703,(1998)).このことから、ptp61FはEGFシグナリングを介したラミナ神経の成熟に関与していることが示唆された.
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