研究概要 |
本研究は,肝臓発生過程での未分化内胚葉からの肝細胞の分化機構と,肝再生過程での各種幹細胞からの肝細胞の分化機構における共通性や相違性を比較解析し,そこに関わる分子的実体を明らかにする事を最終目標としてきた。平成18年度の実績の概要を以下に記す。 1)マウス妊娠9.5日胚の肝臓原基内胚葉単独培養系を応用して,肝細胞分化に対する分泌性因子の作用を解析した。肝臓原基内胚葉は単独培養ではほとんど増殖活性を示さず,細胞の分化も進まなかったが,マウス胎児肝臓片との「トランスフィルター培養実験」や「コンディションド寒天培地を用いた培養実験」を行なった結果,その分化と増殖活性の上昇が観察された。またMEKインヒビター存在下での肝臓原基の器官培養を行なった結果,肝細胞の分化は起こるが増殖活性が低下していた。従って,肝細胞分化・増殖に関わる因子は分泌性因子であり,その増殖誘導はMAPキナーゼ系を介して制御されているが,その分化にはMAPキナーゼ系を介さないことが明らかになった。 2)肝発生・再生過程の内胚葉と幹細胞で共通して発現する因子を探るために,各種転写因子や接着分子,シグナル伝達分子について組織化学的な解析やウェスタンブロッティング,RT-PCRにて解析を行なった。その結果,HNF3βなどのいくつかの転写因子が肝臓原基内胚葉と再生過程の幹細胞で共通して強く発現することを見つけた。 3)肝臓の発生・再生過程での幹細胞での遺伝子発現を解析するための新規実験系の確立に向けて,幹細胞の核形態や核内発現分子に注目しながら,それらの核を単離精製する技術の確立を目指した。これらについては,核単離の条件検討を行なっている段階で終了となった。
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