研究概要 |
デンプンは植物が生産する特有の構造をもったグルコース重合体であり,食品,工業材料として大量に利用されているが,その合成メカニズムは,不明な点が多い。本研究では,デンプン合成に関わる多数のアイソザイムのうち,未だに機能が不明であるものの変異体イネを単離選抜し,それらを用いてその機能を解明した。本年度は,1.登熟胚乳中のスターチシンターゼ(SS)アイソザイムの存在比を調べることで,各アイソザイムの寄与率について考察した。また,2.前年度,その性質が明らかになったSSIおよびSSIIIa変異体間の二重変異体の作成を試みた。 1.野生型,SSI変異体およびSSIIIa変異体のイネ登熟胚乳から得られた可溶性抽出液を陰イオン交換カラムで部分精製し,各フラクションのNative-PAGE/SS活性染色を行った。野生型ではSSIが約6割のSS活性を占め,直鎖伸長の最も主要な酵素であることが明確になった。また,SSIに次いでSSIIIaが約3割の活性を示した。一方,SSIおよびSSIIIaのいずれでもないバンドも検出されたが,これらはマイナー成分であった。SSIは,溶出塩濃度,移動度の異なる複数のバンドが存在することが明確になり,翻訳後修飾されていることが予想された。 2.SSI変異体とSSIIIa変異体の交配後代からSSIが完全に欠失し,さらにSSIIIa活性が低下したイネの種子を得ることができた。これらの胚乳アミロペクチンの鎖長分布,糊化温度は,SSI一重変異体とは全く異なっていたものの,種子重量は,野生型とほとんど変わらなかった。このことから,残りのSSIIIaと他のSSアイソザイムが直鎖伸長を相補していることが示唆された。また,これらの胚乳デンプンが新規構造デンプンとしての利用可能であることを示唆した。
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