研究概要 |
これまで全ての節に雌花が着生する全雌花性キュウリ品種を用いて,複数の果実が存在する場合に発生する「開花直後から成長する果実としない果実との差異」について研究を行ってきた.前年度までの結果で,着果負担の量(乾物蓄積量)よりも着果負担となっている果実の成長速度が後から開花した果実の生長を抑制している結果が得られた.また,通常の単為結果での果実生長では,開花から開花3-4日後がその後の果実生長開始の成否に重要な時期であり,開花後数日は細胞分裂期から肥大期への移行時期であることが明らかとなった.このような複数の果実問の情報伝達がどのようなシグナルを利用したものか検討を行い,前年度では内生ホルモンについて検討を行ったが,シグナルの主要因は別にあると結論した.そこで今年度は,植物体内の糖濃度がシグナルではないかという仮説の下,植物体の光合成供給部位(ソース)である葉を摘除する処理区を設定し,開花数日後にソースを制限した場合の果実成長の成否を検討した.結果,開花2-4日以内にソースを制限すると果実が成長しなかったのに対し,それ以降にソースを制限しても成長速度は低くなるものの,果実は成長した.温室では光環境が一定ではなかったため,測定精度が高いとはいえないが,かなりの確率で同じ結果が得られたことから,体内の糖濃度が変化したと考え,果実と植物体とをつなぐ果柄の汁液を採取して,糖濃度と果実の糖分解酵素の活性について測定した.その結果,摘葉すると果柄の糖濃度が低下し,酵素活性も低下した.果柄の汁液量を正確に測定できなかったので,果実への転流量を算定することはできないが,おそらく複数の果実が着果した状態(シンク過剰)や,日射量不足,摘葉(ソース不足)の状態では,植物体内の糖濃度が低下し,これをシグナルとして検知した開花後数日の果実は成長を開始できないものと推察した.
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