研究概要 |
温帯果樹は芽を分化させたのち、翌春の生長開始期まで休眠状態で越冬する。越冬芽は一定期間の低温に遭遇することにより自発休眠から覚醒し、好適条件下で発芽可能な状態となる。果樹の休眠現象の調査研究の多くは休眠覚醒期の生理と人為的制御法の検討に向けられており、休眠現象の分子レベルでの実態は明らかとなっていない。果樹の越冬芽は花器官が分化していく花芽と栄養生長点が存在する葉芽にわけられる。休眠の実態は両者で異なることから、本研究では花芽と葉芽を明確に区別可能な純正花芽をもつウメを材料とした。ウメ品種‘南高'とタイや台湾で育成されたST, SC,‘二青梅'を供試し、その休眠深度を秋から早春にかけて調査した。その結果、2006年11月26日時点で加温したST, SC,‘二青梅'はいずれも20日前後で萌芽したのに対し、‘南高'では萌芽に至らなかったことから、後者3系統は休眠覚醒に必要な低温要求量が著しく低い系統と位置づけることができた。これらの系統を供試して、細胞周期関連遺伝子であるサイクリンB遺伝子の発現レベルを調査した結果、‘南高'と比較して他の3系統では発現レベルの上昇が早い時期からみられた。しかしながら、その発現量は気温の変化に敏感に反応することが示唆され、サンプリング時期によっては発現レベルの季節的変動がみられないこともあった。したがって、これら遺伝子の発現レベルのみでは越冬芽の休眠深度をはかる指標として不適切な可能性も考えられた。そこで本研究では自発休眠と他発休眠を明確に区別するための分子マーカーの獲得を目的として、自発休眠芽で特異的に発現している遺伝子の探索を試みた。その結果、転写因子や植物ホルモン関連遺伝子などの単離に成功した。
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