研究概要 |
一般的に,糖加水分解酵素は反応機構の違いから,「アノマー保持型酵素」と「アノマー反転型酵素」の2種に大別される。アノマー保持型酵素は糖転移反応も触媒することから,糖鎖合成のツールとして用いられている。さらに,アノマー保持型酵素は求核基を不活性化させることで加水分解能を消失させた変異型酵素と反対側のアノマー型のフッ化オリゴ糖を基質に用いて合成反応のみを触媒する,いわゆる「グライコシンターゼ化」した研究例も報告されている。一方,アノマー反転型酵素は糖転移反応を全く触媒せず,用途が分解反応に限られていた。また,アノマー反転型酵素の不活性型酵素とフッ化糖を組み合わせた上記のグライコシンターゼ化の研究も全く行われていなかった。2006年にアノマー反転型酵素であるRex(Bacillus halodurans C-125由来還元末端オリゴキシラナーゼ)にランダム変異を導入して,グライコシンターゼ化することに成功した。ところが,これらの変異型酵素はフッ素遊離能が野生型酵素よりも低下しているとともに,微弱な加水分解活性が残存していた。アノマー反転型GHのグライコシンターゼ反応を高効率化するには,フッ素遊離能を落とさずに,加水分解活性を低下させる変異導入が重要な鍵となる。グライコシンターゼ反応の高効率化を目指して,新たなRexの変異型酵素を設計し酵素活性を解析した。活性部位近傍のY198をFに置換した変異型酵素が効率よくグライコシンターゼ反応を触媒することが判明した。アノマー反転型GHをグライコシンターゼ化する場合は,求核試薬である水分子を保持する一般塩基触媒残基以外の残基に変異を導入することが有効であると結論した。
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