研究概要 |
渓流への落葉安定供給のために、どの程度の幅の渓畔林を保全すべきかを評価するためには、落葉の移動距離を解明する必要がある。以前の課題において、落葉移動距離の推定手法を提案したが、モデルの十分な検証が出来ていないなどの問題が残った。本課題では、以前に提案したモデルをベースに、落葉移動距離推定手法の開発を目指した。 調査は、小川群落保護林にある渓流の左右の斜面を用いた。クリが1本ずつ生育しており、クリ落葉をトレーサーとして移動距離を計測することが可能である。落葉の移動は、樹冠から落下する際の移動と林床上での再移動の2プロセスに分けられるが、いずれも風が重要な営力と考えられる。以前の研究から、斜面により風の吹き方が異なると予想されたため、谷底にある既存のタワーのほか、両斜面上にもタワーを建設し風速測定を行った。クリ落葉の観測は、調査対象木から放射状に3方向(いずれも下り勾配)にリタートラップおよび林床コドラートを配置し行った。 落下時の移動に関しては、クリ落葉は、以前と同様に、大部分が10〜15m以内に落下していた。モデルによる推定は、左岸側斜面では、3方向すべてにおいて推定結果が観測データとよく合致した(樹冠近傍は除く)。前回、結果の芳しくなかった右岸側は,いまだ満足のいく結果ではないものの,今回,斜面上の風速データを用いたことで,ある程度の改善が認められた。右岸側については、モデル自体というよりも、観測データの精度等に問題があるものと推察された。全体としてみると,本モデルの有効性は確かめられたといえる。 林床での移動については、以前の研究で明かになった主風向や林床植生だけではなく、斜面ごとの風の発生頻度が落葉移動に影響することが分かった。山地のように局所的に風の吹き方が変わる場所では、風の頻度を説明変量に加えることで、移動距離の推定精度を向上させられると考えられる。
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