研究概要 |
南北に広い日本列島周辺に生息する温帯性魚類においては,緯度(気候)クラインに対する適応的形質の遺伝的分化が存在する可能性がある。このような局所適応の実態を解明するために,日本各地で水産資源として重要なハゼ科のシロウオLeucopsarion petersiを対象に,特にその初期生活史形質をターゲットとして,緯度集団間の変異パターンについて検討した。 研究代表者はmtDNAの塩基配列分析からシロウオには遺伝的に大きく分化した日本海型と太平洋型が存在することを明らかにしている。本研究では,シロウオ日本海型の3緯度集団(佐賀,福井,青森)を対象に,4水温区を設けた共通環境実験を行ったところ,1)高緯度集団はどの水温区でも成長速度が速いこと,2)形態発育速度(摂餌や遊泳に関連する形質の化骨形成過程)において,低緯度集団のほうが,小さいサイズで発育が進むといった成長速度とは逆のパターンを示すことが明らかになった。さらに,マイクロサテライトDNAを用いてシロウオ日本海型の遺伝的構造を検討したところ,isolatiorby-distance型のパターンを示すことも判明した。このようなパターンは本種の成長速度にcountergradient variationが存在し,この現象は緯度間補償(気候適応)の理論に適合していると考えられた。また,成長速度と形態発育速度の対照的な緯度間変異パターンは,本種における種内異時性の存在を示唆している。
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