研究概要 |
本研究は,インドのフード・セキュリティ政策である公的分配システム(PDS)の利用に関する地域差に焦点を当てた。まずインド農業生産に関する地域性を州データに基づき考察を行った。関連して,州財政支出の特徴付けを行った。財政支出のパターンが複数の州をまたぐ地域的な範囲で共通性が見られること,また80年代以降に各州の食料・栄養政策に関わる支出が増加し,かつ州によってその規模にかなりの差異が見られることを確認した。後者はPDSの運営に関わる費目であり,インド全体での穀物需給の逼迫度が緩和した80年代以降に,こうした州のPDS運営の独自性が高まっていることは注目に値する。こうしたfindingを受け,州別のパネル・データを用いて,PDSの一人当たり穀物分配量を決定する要因を考察した。こうした研究は過去にもあるが,そこでは分配を受ける主体の効用変化が主要な焦点となっている。しかし穀物分配は分配を受けた主体の効用を引き上げるが,一方で市場穀物への需要を低減させ,穀物の市場価格が低下し生産者の厚生が下がる可能性を無視できない。この点で,分配を受ける主体の効用側面だけでは不十分であり,こうした生産者の厚生を考慮に入れる必要がある。そこで,分配用の穀物を確保するために中央政府によって支持価格をもとに穀物の買い上げが行われている点に着目したことが,既存の研究とは異なる本研究の独自性であると言える。パネル・データを使った推計でも,買い上げ規模が高いほど,PDSの穀物分配量は高くなることが示された。これは,価格が支持されるために,PDSによる生産者の厚生低下効果が相殺され,PDSが政策運営として受け入れられやすいことを示している。このPDS分配量に関するパネル・データ分析は,2007年度の日本農業経済学会で「インド公的分配システムの地域性と中央・州関係」として報告し,現在同論文集に投稿中である。
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