研究概要 |
本研究の目的は,農業水利施設の維持管理作業への地域住民の参加意思決定に対する他世帯の参加動向等の影響を実証的に把握し,地域内の世帯分布や維持管理活動への参加要請活動等が地域全体の参加率等に与える影響を,マルチエージェント・シミュレーションにより解明することである。本年度の計画は,1)最終的なシミュレータの構築,2)地域全体の参加率を高める方策の検討,3)国際学会等での成果発表,の3点である。 これまでに収集・分析した結果を新しく追加したデータで一部更新して,地域住民の意思決定モデルを実装したマルチエージェント・シミュレータを構築した。それを利用して地域住民の水路の清掃活動等への参加行動を,複数の条件下でシミュレートした。その結果,地域に占める非農家の割合が上昇すること(都市化の進展)により非農家の参加率は低下するものの,他世帯の参加状況に左右されず初期時点での参加確率が相対的に高い非農家世帯(参加意向の強い非農家)が一定程度存在することで,非農家率が高い状況でも初期条件によっては地域全体の参加率が高くなること(例えば,参加意向の強い非農家が2割存在すると設定したとき,最終的な地域全体の参加率が2割前後のケースと9割程度のケースが生じた)などが確認された。これらのシミュレーションを通じて,維持管理活動への協力要請を求め始める段階で参加意向の強い非農家世帯を一定程度確保すること(対象世帯を限定した参加要請活動)や,そのような世帯が存在することの地域へのアピール(広報や話し合いを通じて広範囲な世帯の認知状況を改善する活動)が,地域全体の参加率の向上には重要性であるが,参加意向の強い非農家が地域的に偏ると,これらの活動の効果が得られにくい可能性のあることが示唆された。なお,本研究の実施を通じて得られた成果の一部を国際学会で報告する一方,英文でとりまとめた。
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