研究概要 |
【目的】マウスの腎臓の形態には顕著な雌雄差が存在する。本研究では,下顎腺EGFを介した腎臓の性差発現メカニズムを明らかにすることを目的とする。平成17年度の検索では,マウスの腎臓の形態には下顎腺摘出による影響が認められ,雌雄に特徴的な構造物の発現低下を認めた。平成18年度は性ホルモンおよびEGF投与実験を行った。 【材料と方法】雌雄DBA/2Crマウスを使用し,擬手術群,下顎腺摘出群,EGF投与群,精巣・卵巣摘出群,精巣・卵巣摘出後の性ホルモン(テストステロンおよびエストラジオール)投与群を設定した。腎臓の形態は,光顕,電顕,形態計測学的に精査した。EGF投与実験では,血漿中のテストステロンおよびエストラジオール濃度をELISAにより測定した。 【結果および考察】平成18年度の実験でも,雌雄とも腎臓の形態に下顎腺摘出による影響が認められた。雌の特性である近位尿細管上皮のPAS陽性穎粒は減少する傾向を示した。雄の近位尿細管上皮の特徴である空砲構造も下顎腺摘出による減少を示し,これは統計学的にも有意であった。精巣・卵巣摘出および性ホルモン投与実験により,雌雄の特性であるPAS陽性顆粒と空砲構造の発現が性ホルモンに影響されることを確認した(テストステロン:顆粒の発現には抑制的に,空砲の発現には促進的に作用,エストラジオール:顆粒の発現に促進的に作用)。一方,EGF投与実験では,雌雄ともに下顎腺摘出群と下顎腺摘出後のEGF投与群との間で腎臓の形態に明らかな違いが認められなかった。また,血漿中のテストステロンおよびエストラジオール濃度にもEGF投与による影響は認められなかった。本研究の結果から,マウスの腎臓の形態における雌雄差の発現は下顎腺機能の統制を受けているが,それは下顎腺由来のEGFによるものでないと示唆された。マウスの下顎腺にはEGF以外にも数多くの生理活性物質が含まれており,EGF以外の物質の関与についても今後の検索が必要であろう。
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