研究課題
若手研究(B)
1997年以来、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスは東南アジアを中心に発生し続けている。160人を超える人々がこのウイルスによって感染・死亡しているが、人間同士の感染の発生は稀である。この事実は、新型ウイルス発生・世界流行の可能性に関与する基本的な問題を提起している。鳥由来のH5N1ウイルスは、鳥型のウイルスレセプターを欠くと思われる人間に、なぜ、効率的に感染・増殖が可能なのであろうか?また、人間同士での感染を制限する分子学上の障壁は何であろうか?私達は、前年度に、高病原性鳥インフルエンザウイルス感染患者から分離された1つのウイルス株が、鳥型・人型の両方のシアル酸(インフルエンザウイルスレセプター)を認識する性質を有することを報告すると同時に、宿主側要因として、人間の呼吸器組織に分布するシアル酸の性状を報告した。本年度、更に、1918年に流行したインフルエンザウイルス(スペイン風邪)の生物学的性状の特徴づけを行い、病原性の獲得機構を解明した。また、ウイルスRNA合成酵素(RNAポリメラーゼ)における点変異の、ヒト細胞での増殖における生物学的意義、同変異に感受性を示す哺乳動物を用いた生物学的意義付けを行った。つまり、この変異はヒトを含む感受性細胞においてウイルスポリメラーゼ活性を上昇させ、ウイルスポリメラーゼ活性の上昇は感染個体内での一次増殖部位におけるウイルス粒子生産量を増加させる。一次増殖部位におけるウイルス粒子生産量の増加は他の感受性組織への二次的な播種の効率を増加させることが判明した。私達の研究成果はいずれも、今後の鳥インフルエンザウイルスの病理発生機序解明の主軸となる結果を提示している。
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