研究概要 |
遺伝子治療の標的としてBubR1が有用かを明らかにすることを目的としてP53の変異が報告されている6種類のヒト膀胱由来腫瘍細胞とP53に変異の認められない1種類のヒト膀胱由来腫瘍細胞にBubR1遺伝子を導入し,導入後の中心体数,生細胞数ならびに増殖能を解析した。その結果,BubR1を導入することでP53に変異を有する6種類の細胞株全てにおいて中心体過剰複製が抑制され,中心体過剰複製を起こしている細胞が死滅し,さらに悪性細胞の増殖能を示すコロニー形成能が低下していた。一方,P53に変異を持たない細胞株では,これらの変化は軽度であった。以上の結果から,腫瘍細胞に対するBubR1遺伝子導入はP53に変異を有する腫痂細胞に対してのみ腫瘍抑制効果が認められる可能性が強く示唆された(投稿準備中)。一方,104例のヒト膀胱腫瘍症例サンプルを用いて,自然発生腫瘍におけるBubR1蛋白の発現を検討したところ,BubR1の発現は予想に反して組織型の悪性度と細胞増殖度と有意に相関していた(Yamamoto Y.et al.,2007)。このようにBubR1の発現はin vitroでは腫瘍抑制に作用するが,in vivoでは腫瘍増悪の指標として有用であるという一見矛盾する結果が得られた。しかしながら,有糸分裂チェックポイント蛋白であるBubR1はin vivoでは腫瘍二化によって異常増殖能を獲得した細胞において結果的に発現した可能性も考えられる。今後は実験動物モデルを用いて生理的な発現レベルを超えたBubR1発現が腫瘍増殖を抑制するかを検討することによって,BubR1遺伝子治療の可能性を検討する必要があると考えられた。
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