研究概要 |
Nkx2.1(Ttf1,T/ebp)はNKXファミリーに属するホメオドメイン転写因子で、肺や甲状腺の機能と器官形成に必須であることが知られている。本研究ではNkx2.1の下流の標的遺伝子群を同定することによって、正常な器官形成を誘導し終末分化を担う遺伝子カスケードの解明を目的とした。 Nkx2.1ノックアウトマウスの肺を用いたcDNAサブトラクション法により、肺におけるNkx2.1の下流の標的遺伝子の探索を行った。新たな候補遺伝子として、マウスの蛋白質脱リン酸化酵素のグリコーゲン調節サブユニット(G_L, Ppp1r3b)遺伝子を同定した。Ppp1r3b遺伝子は主に肝臓や心臓でグリコーゲン合成酵素を活性化してグリコーゲンの合成を促進するが、これまでマウス成体の肺ではほとんど発現が見られないことが知られていた。マウス胎児肺を用いたノーザン解析を行ったところ、胎児肺では肝臓や心臓とほぼ同じレベルの遺伝子発現が観察され、その後成体になると急速に発現量が減少することを明らかにした。また、マウスPpp1r3b遺伝子はタンパク質をコードしないエクソン1aおよび1b、全ORFをコードするエクソン2の2つのエクソンからなること、選択的スプライシングによってエクソン1aと1bを使い分け、さらに3種類(タイプ1a1,1a2,1b)の転写産物を生成することを5'-RACEとRT-PCR解析によって明らかにした。このうちNkx2.1はエクソン1aの上流のプロモーター領域に結合して、タイプ1a1と1a2の転写を活性化することをレポーター遺伝子を用いたプロモーター解析とゲルシフト解析によって示した。以上の結果などから、Nkx2.1によるPpp1r3b遺伝子の発現誘導が、マウス胎児期における肺のグリコーゲン蓄積に関与していることが示唆された。
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