研究概要 |
オートファジーには2つのユビキチン様修飾因子であるAtg12とAtg8が必須である.Atg8はユビキチン様反応により,リン脂質の一種であるphosphatidylethanoleamine(PE)と結合する.その際,結合酵素であるAtg3が両者の結合を触媒する.今回,酵母Atg3全長の結晶構造の決定に成功した.Atg3はユビキチン結合酵素と構造類似性をもつE2コア領域および2つの固有な領域からなっていた.固有領域の一つは約80残基からなり,結晶中でそのほとんどが電子密度を示さないランダムコイル状態をとっていた.もう一方は長いヘリックス構造を取り,Atg3のコア領域から突き出した構造をとっていた.In vivo, in vitroの解析から,両者ともにAtg8のPE化に重要な働きを持っており,前者は活性化酵素であるAtg7との結合に,後者はAtg8の結合に関わることが示唆された.Atg3の活性システイン残基の近傍には,結晶化溶液中に含まれていた硫酸イオンが結合しており,その領域はPEのリン酸基部分が結合する領域であることが示唆された. Atg12はユビキチン様反応により,Atg5のリジン残基側鎖とイソペプチド結合を形成する`Atg12-Atg5結合体は更にAtg16と相互作用し,オートファジーにおいて三者複合体として重要な働きを担う. 今回,酵母Atg5全長とAtg16のN末端領域の複合体の結晶構造の決定に成功した.Atg5は意外にも自身に二つのユビキチンホールド構造を含んでいた.二つのユビキチンホールドの間にはヘリックスバンドルからなる領域が存在し,3つの領域が互いに相互作用することで,ひとつの球状構造を形成していた.Atg16のN末端領域はヘリックス構造をとり,Atg5の3つの領域の境界に形成された溝に結合していた.Atg12が結合するリジン残基はAtg16結合部位とは反対の面に位置していたことから,Atg5はAtg12とAtg16の両方に,構造を変化させることなく同時に結合できると考えられる.Atg5との結合に関わっているAtg16の残基に関して変異実験を行った結果,Atg5との結合能が失われたAtg16変異体は,オートファジー活性を持たないことが明らかとなった.したがって,Atg5とAtg16は互いに直接結合して初めて,オートファジーにおける役割を担うことができると考えられる.Atg5は自身が2つのユビキチンフォールドを持ち,Atg12が結合することで3つのユビキチンフォールドとなり,さらにホモ4量体と考えられるAtg16と結合することで,計12ものユビキチンフォールドが集合することとなる.このような非常にユニークな構造体が,オートファジーにおいてどのように機能しているのかを明確にすることが,今後の重要な課題である.
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