研究概要 |
我々は細胞のがん化に関わるβ-1,4-ガラクトース転移酵素(β-1,4-GalT)Vの転写制御機構を解析し、この酵素の遺伝子発現は転写因子Sp1で制御されていることを明らかにした。Sp1は様々ながん細胞で発現が増大することが報告されており、がん細胞の増殖に必要な血管内皮細胞増殖因子や、浸潤に関わるマトリックスメタロプロテアーゼなどの遺伝子発現を制御している。従って、がん細胞においてSp1の発現やSp1のDNAへの結合を効率よく低下させることができれば、癌細胞の悪性形質を担うこれらの分子の発現を抑制できると考えられる。本研究では、Sp1がDNAへ結合するのを阻害する薬剤Mithramycin Aや、Sp1の発現を抑制するsiRNAを用いて、がん細胞におけるβ-1,4-GalTV遺伝子の発現や、がん細胞の増殖速度について解析した。ヒト肺がん細胞A549細胞をMithramycin Aで処理すると、β-1,4-GalTV遺伝子の発現及びプロモーター活性に低下が見られ、細胞増殖速度も対照に比べて著しく低下した。次に、Sp1 siRNAでA549を処理すると、β-1,4-GalTVやSp1の遺伝子発現、並びにプロモーター活性は著しく低下した。従って、このsiRNAを用いて癌細胞の悪性形質を抑制することが可能であると考えられた。次に、どの程度がんの悪性形質が抑制されているかを評価するために、動物細胞発現ベクターにSp1 siRNAを組み込んだプラスミドを作製した。このプラスミドをA549細胞に導入し、薬剤存在下で培養してSp1の発現を抑制したがん細胞株を複数樹立した。これらの細胞を用いて、増殖速度、血管内皮細胞への接着性や浸潤能についての解析を継続中である。
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