研究概要 |
ヒト上皮性悪性腫瘍の手術材料を用いた解析から、CARDドメインを持っ新規の細胞死抑制性蛋白質TUCAN-54を同定した。TUCAN-54は、胃癌、大腸癌、膵癌などの上皮系悪性腫瘍の半数以上に発現するが、正常胃粘膜、大腸粘膜、膵組織にその発現は認めなかった。次にアポトーシスにおけるTUCAN-54の機能解析を行った。その結果、TUCAN-54の過剰発現は、Fasや腫瘍壊死因子を介したdeath receptor経路のアポトーシス及びミトコンドリア経路のアポトーシスの両者を強く抑制した。次に、どのような分子との結合がTUCAN-54のアポトーシス抑制作用に重要であるか解析した。 その結果、death receptor経路のアポトーシス抑制作用はTUCAN-54がFADDと呼ばれるシグナル伝達分子と結合する事が、また、ミトコンドリア経路のアポトーシスはprocaspase-9と結合する事が重要であることが示唆された。最後に、TUCAN-54の発現が、実際にヒト腫瘍に細胞死耐性の形質を付与するかどうかの検討を行った。その結果、TUCAN-54を発現するヒト大腸癌細胞株を用いた実験系において、TUCAN-54特異的siRNAでその発現を低下させると、抗癌剤に対する感受性が数十倍に増加することが明らかとなった。従って、TUCAN-54が腫瘍細胞で発現することは、腫瘍が様々な細胞死から逃避し、生体で生き延びるために重要な役割を果たすことが示唆された。 以上の結果の大部分は、Cancer Research(2005,Oct1,65: 8706-14)誌で発表している,現在、TUCAN-54特異的siRNAを安定発現する腫瘍細胞株を用い、TUCAN-54を標的とする分子標的治療の基礎的検討を行っている。
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