要旨 目的:粒子状物質による大気汚染は国際的に大きな問題になっており、その健康影響を客観的に評価する方法の開発が期待されている。本研究では、幹線道路沿道でサンプリングした粒子状物質を用いて、in vitroで培養細胞に曝露し、蛋白質の発現を検討した。 方法 大気中粒子状物質は幹線道路沿道でHigh volume air samplerを用いて捕集した。捕集された粒子(有機物含有粒子)の一部からは有機溶媒で化学物質成分を取り除き、残渣を無機粒子とした。マウス肺上皮細胞株LA-4をディッシュ上に1.4×10^4個/cm^2で撒き、72時問後までに2回(24時間後と48時間後)、各粒子および人工的な炭素粒子Printex90を超音波破砕機によって分散後、培地に混合することによって曝露した。粒子曝露後の細胞数、lactate dehydrogenase(LDH)活性を測定した。細胞から抽出された蛋白質はpH4-7の等電点電気泳動および10%アクリルアミドゲルを用いた二次元電気泳動に展開し、蛍光染色後に蛋白質の発現を解析した。 結果 LDH活性は無機粒子曝露時でコントロールに比べて0.70倍、有機物含有粒子曝露時で0.84倍と有意に減少したが、Printex90への曝露では変化がみられなかった。それぞれの粒子を曝露した細胞中の蛋白質発現は、粒子種によって共通して増減するものと異なる挙動を示すものがあり、人工的な炭素粒子と環境中から捕集した粒子では、検出された影響に差異が見られた。 考察 大気環境中から得られた粒子に応答する蛋白質があることが示された。粒子状物質の影響を評価するためには、実際に大気環境中から得られる粒子を用いる必要があると考えられた。
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