研究概要 |
昨年度は膵癌をはじめとする消化器癌一般および消化器良性疾患の保存血清を用い,midkineの陽性率を検討した.各疾患の陽性率は,膵癌40%(14/35),胃癌64%(23/36),大腸癌67%(16/24),肝細胞癌38%(17/45),胆道癌71%(5/7)であった.膵癌よりは胃癌,大腸癌での陽性率が高く,また胃癌,大腸癌ではStage Iであっても各々68%(13/19),66%(2/3)と高率に陽性であった.一方良性疾患においては、特に黄疸を呈す疾患で高い陽性率であった.膵癌での陽性率も比較的高いと思われるが,慢性膵炎での陽性率も高い(33%)点が問題であった.また肝胆道の良性疾患でも陽性率が高い為,鑑別診断に有用とは言いがたい.胃癌,大腸癌では比較的進行度の低い例でも陽性率は高く,早期診断に有用な腫瘍マーカーである可能性が示唆された. 今年度は膵癌もしくは慢性膵炎患者の膵液中のmidkine濃度をELISA法にて検出、濃度測定を試みたが、いずれも非常に低値であった.おそらく膵液中へのmidkineの分泌、移行量は非常に少ないと考えられ、診断に有効とはいえない結果に終わった.次いで膵液中RNAを抽出し、RT-PCRによる検出を試みた.膵癌11例中10例で陽性(91%)であった.また慢性膵炎では5例中2例で陽性(40%)であった.さらに症例数を重ねる必要があるが、診断に有用である可能性が示唆される結果であった.なお免疫染色に関しては、ヒト膵癌組織のサンプルの収集が難航しており、後日検討する予定である. 以上より、これまでの研究成果として(1)血清midkineの陽性率は膵癌ではさほど高くはないが、胃癌、大腸癌で早期診断に有用である可能性がある.また(2)膵液ではRT-PCR法が良性疾患との鑑別あるいは早期診断における有用性が期待される.
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